建設業界のDXとは、デジタル技術を導入することで建設業界が抱えるさまざまな課題を解決し、業務や組織に変革をもたらすことです。この記事では建設業界のDXについて解説します。
建設DXとは
まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術の活用で企業を変革、競争力の優位性を保つことです。
建設DXとは、建設の業務にアプリやAIなどのデジタルツールを取り入れてさまざまな課題をクリアし、業務効率化を図ることだといえます。
◇建設DXが必要な理由
建設業は現在、深刻な人手不足や高齢化による技術継承の遅れ、後継者問題、長時間労働など、いくつもの大きな問題と直面しています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を受け、非対面、非接触の生活が推奨された際、オンラインでの業務に慣れていない建設業界は困難に直面しました。また、建設業には独自の慣習が色濃く残っており、図面や資料、工程表などを紙ベースのまま管理していたり、これらをFAXで送受信したりしている企業も多く存在します。
まずはこれらの慣習から抜け出し、少しずつAIやデジタル技術を取り入れ、DX化を進めていくことが求められています。
建設業界が抱える課題
建設DXに着手するためには、まずは建設業界が抱える課題について理解する必要があります。1つずつ確認していきましょう。
◇人材不足
建設業界が抱える1つ目の課題は、人材不足です。
国土交通省が2021年3月に発表した「最近の建設業を巡る状況について」によると、建設業の就業人口はピーク時の平成9年には685万人だったものの、2020年時点では492万人にまで減少しました。さらに、2020年時点での建設業の就業者の36%が55歳以上であるのに対して、29歳以下の割合は12%となっています。
全産業の平均は55歳以上が31.1%、29歳以下が16.6%であることを鑑みても、建設業界はほかの業界と比べて高齢化が進んでいることがわかります。
建設業界における高齢化は人手不足の原因となっているだけではなく、後継者不足による倒産・廃業の増加や、次の世代への技術継承ができないといった問題も引き起こしています。
特に歴史的に確立されてきた伝統的な技術や、高品質の代名詞ともいえる日本ブランドを支えてきた熟練者の高度な技術の断絶は、建設業だけではなく日本経済にとっても大きな問題といえるでしょう。
参考:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」
◇働き方改革
建設業界における2つ目の課題は、常態化した長時間労働を解消して働き方改革を進めることです。
前述の調査報告によると、2020年における全産業の年間実労働時間の平均が1,621時間なのに対し、建設業従事者の年間実労働時間は1,985時間であり、約2割も多いことがわかりました。
さらに、年間の出勤日数についても全産業の平均が212日なのに対し、建設業は244日となっています。
2019年には日本全体の労働環境向上を目指し、働き方改革関連法が施行されました。ただ建設業などのいくつかの業界については、いきなり残業を削減することは難しいといった実情を踏まえ、特例措置として5年間の猶予期間(2024年4月まで)が設けられました。
しかしその猶予期間も終了し、建設業界は今、「働き方改革待ったなし」の状況にあります。
◇低い生産性
建設業界では、生産性が低いことも問題視されています。
一般社団法人日本建設業連合会の「建設業デジタルハンドブック」によると、2020年における建設業の生産性は3,075円/人・時間でした。
全産業の平均生産性は4,412円/人・時間で、建設業は2001年から2019年まで3,000円/人・時間を超えることがなかったことを考えると、もとより生産性が低い業界といえます。
建設業界の現場は、場所によって環境が異なり、業務や作業の標準化が難しいのが実情です。人手不足や非効率な業務などが生産性の低さにつながっている可能性があるため、少ないリソースで効率よく業務を遂行していくことが求められます。
◇対面主義
建設業界にある「対面主義」という風潮も解消すべき課題の1つです。
建設業では、現場でなければできない判断、連絡体制の構築、日々変更や修正がなされる作業指示書や図面の共有など、さまざまな事情により、対面での業務遂行が重視されています。
総務省より発表された「令和3年版情報通信白書」のテレワークの実施状況によると、2020年における建設業界のテレワーク実施率は15.7%で、全体平均の24.7%を大きく下回りました。
このような状況から抜け出すためにも、建設業に特化したITツールなどを導入し、属人性を解消して業務の標準化を進め、作業効率の向上を目指す必要があります。
参考:総務省「令和3年版情報通信白書」
建設DXのメリット
それでは次に、建設DXに取り組むことで得られるメリットについてみていきましょう。主に以下の3つのメリットが期待できます。
◇業務効率化
建設DXへの取り組みは、業務効率化につながります。
たとえば、インターネットを活用し現場確認の手間を軽減したり、撮影した写真をスマホでも簡単に整理・共有できたり、業務を行える時間や場所が増えます。結果、コミュニケーションがスムーズにとれるようになったといった事例も多くあります。
現場仕事以外の部分を効率化することで、結果的に長時間労働も改善できます。
◇働き方改革の促進
建設DXに取り組むことのメリットとして、働き方改革が促進することは重要なポイントです。
デジタル技術の活用は労働生産性を向上させ、建設業界で恒常化している長時間労働の是正にもつながるでしょう。また、事務手続きなどのデジタル化が進めば、バックオフィス部門のテレワーク導入・定着にも効果が期待できます。
さらにこれらの改革によって労働環境が改善されることで、就業希望者が増えるという効果も見逃せないでしょう。前述の通り建設業界は深刻な人手不足に直面しています。その解消のためにも働き方改革を進め、就職希望者にとっての魅力を向上していくことが求められます。
◇ナレッジの共有
建設業は人材不足に伴い就業者の高齢化が進み、技術継承が大きな課題となっています。
技術継承を難しくする理由の一つが、職人の技術が個人の経験などをベースとするなど、極めて属人的であることです。
そのため建設DXは、知識や経験、技術といったナレッジの共有を促進するうえでも有効だと期待されています。
熟練の職人が持つ技術をデータ化・見える化することで、社内あるは業界全体で共有するナレッジとして蓄積・継承していけるでしょう。
建設DXで用いられる技術
建設DXで用いられる、デジタル技術の活用方法を見ていきましょう。
◇BIM/CIM
建設DXで代表的といえるデジタル技術は、BIM/CIM(ビム・シム)でしょう。
BIM/CIM(ビム・シム)とは、計画、調査、設計で3Dモデルを導入することで、情報共有や建設生産・管理システムの効率化、高度化を目的とするものです。さまざまな情報を一元化することで、業務の効率化や安全、品質の確保、環境性能の向上、コスト削減を達成できます。
国土交通省は2019年において、2025年度までにすべての公共工事でBIM/CIMの概念を活用する方針を示していました。5年程度でBIM/CIMを浸透させることは困難と見られていましたが、新型コロナウイルスの影響で2023年度に前倒しする意向を示しています。BIM/CIMの導入を後押しする形になり、さらなる建設DXが加速するでしょう。
◇ICT技術の活用
ドローンや建設機械の遠隔操作、ロボットなど、危険かつ人の手が必要な作業でICT技術による自動化が進んでいます。
危険な作業は建設現場につきものですが、新たな働き手が増えない要因の1つにもなっています。しかし、ICT技術の導入により、残業時間の削減、危険な作業の減少による安心感など、建設業界の働き方改革にも一役買うでしょう。
また、タブレット端末による書類の電子化やコミュニケーションツールの活用により、アナログ体質の脱却も図ることができます。
◇IoTやAIによる技術の継承
人手不足の課題を抱える建設業界は、ベテランの技術やノウハウを継承する必要性があります。しかし、熟練の技術を教え、習得するには膨大な時間がかかるのが実情です。
技術の継承において、DX化は重要な役目を果たします。IoTで収集・集積した現場の作業データをAIにより分析、解析することで、作業や技術の標準化や見える化が可能です。また、BIM/CIMにより、熟練技術者の状況判断を学ぶこともできます。
経験が浅い社員でも熟練者と同等の質を担保できるため、後継者不足に悩む業界にとって救世主といえるでしょう。
◇クラウド
クラウドとは、データや業務システムなどをインターネット経由で利用できる形態・技術です。たとえば現場とバックオフィスの手続きや図面・資料の共有など、時間・距離を問わずシームレスに行うことが可能になります。
◇ドローン
ドローンは、主に測量の際に効果を発揮します。たとえば、人力で行うと膨大な日数を要する測量データの取得も空中からの測量であれば短時間で済みますし、高所や斜面など危険が伴う確認作業を従業員が行わずに済みます。
建設DXに対する国の取り組み
デジタル技術を普及させるために、国はさまざまな取り組みを行なっています。次に代表的なものを紹介します。
◇i-Construction
「i-Construction」とは、国土交通省が主導で行う、建設現場すべてのプロセスにICT技術を導入して、生産性向上や経営環境の改善などに関するプロジェクトです。
「ICTの全面的な活用」「規格の標準化」「施行時期の標準化」の3つを柱に施策を進めており、中でも「ICTの全面的な活用」がプロジェクトの大きな鍵になっています。
そこには「ICT導入協議会」の設置や、ICT建設機械等認定制度の導入などが重点的に取り組まれ、建設DXの普及を強く後押ししています。
◇BIM/CIM原則適⽤
2020年4月、国土交通省は「2023年までに小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適応」することを決定しました。
2024年となった今、着実に普及は進んでいます。まだ着手していない事業者は、全体適用に向け、情報共有の手段として使用する3次元モデルの活用目的の設定における「義務項目」「推奨項目」など、詳細をチェックしていく必要があります。
大手ゼネコンが推進する建設DXの実例
大手ゼネコンはDX化に注力しており、各社でさまざまな取り組みを行なっています。
例えば、建設生産プロセスにおいて、作業の半分をロボット化、管理の半分を遠隔操作、プロセスを全デジタル化するのもその一つです。省人化が可能になることで、限られた人員で効率的な作業が実現するでしょう。
関係者同士の情報共有を円滑にするスマートBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、ダム建設の建設機械をすべて自動化するなど、積極的にDX化を図るゼネコンもあるようです。
また、日常業務のデジタル化による手作業の効率化、遠隔支援やビル監視制御システムの開発、他業種との共同開発でヘルメットに装着するモニタリングシステムの開発など、各社はさまざまな建設DXに取り組んでいます。
ただし、建設DXを推進する一方で、専門的な人材は不足している状況にあります。建設業界の経験者で、建設DXに興味をもち学ぶ姿勢があれば、エンジニアに転身できる可能性も十分あるでしょう。
まとめ
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を駆使することでビジネスモデルを変革させ、競争に勝てるようにすることです。
建設業界もDX化が浸透しつつあり、大手ゼネコンを中心に新たな取り組みが行なわれています。BIM/CIM、ドローンやロボットなどのICT技術、AIを活用した技術の継承など、建設DXの技術は浸透しつつあります。
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