建設業に携わる方法はさまざまあり、建設会社に勤めるだけでなく、自分の技術を活かすことで独立することもできます。しかし会社員から独立開業するにあたり、何から準備すればいいのかという疑問を持つ方も少なくないでしょう。
独立を成功させるためには、独立・開業に必要な手順と手続きを知っておくことが重要です。今回は建設業における独立の事情、独立に必要な準備と流れを解説していきます。
建設業で独立・起業する前に知っておきたいこと
建設業で独立するには、一人親方から始めるのが一般的です。おもに大工、型枠や塗装、左官、クロス貼りなど、1人で作業ができる業種で独立するケースが多いようです。建設業は“手に職”をつけられるため、あらゆる業種の中でも独立しやすいといえます。
なお、一人親方の仕事は新築だけでなく、リフォーム関連の需要も見込めます。一人親方として独立したあと、軌道に乗ってから従業員を雇うパターンが一般的な流れです。
建設業で独立するにあたり、フランチャイズも方法の1つです。フランチャイズは本部と加盟店契約を結び、加盟金やロイヤリティを支払い、商標を利用する権利を得るものです。フランチャイズは知名度があることから集客しやすく、部材の一括仕入れによるコストダウン、会社経営のサポートが受けられるなどのメリットがあります。
建設業で独立すると「資金繰り」が難しいといわれることがあります。しかし、フランチャイズはロイヤリティの支払い義務があるものの、本部のサポートがあるので資金繰りを学ぶことも可能です。
また、建設業で最も注意が必要なのは労災事故です。工事現場は大なり小なり危険のある環境です。重大な事故が起きた場合、損失を補償しなければならないため、安全管理を重視する必要があります。
◇建設業の独立・起業資金の目安はいくら?
建設業で独立を考える際に気になるのが起業や独立にかかる資金です。目安としてはおおよそ500~1,000万円程度が必要といわれています。
内訳は大きく分けて会社の設立費用、事務所を構える費用の2種類になります。
株式会社を設立するには、下記の手続き費用がかかります。合計22~24万円が必要です。合同会社の場合は費用を10万円程度に抑えることが可能です。
・収入印紙代 4万円
・定款認証手数料 3~5万円
・謄本発行手数料 約2,000円
・登録免許税 15万円程度
会社設立費用のほかに、事務所を借りる場合は物件を借りる際の保証金や、事務所で必要なオフィス家具を用意する費用などがかかります。
それらを合計すると、500~1,000万円程度の自己資金が必要です。
もちろんどの程度の物件を借りるか、オフィス家具にどれだけこだわるかにもよりますが、まとまった資金が必要になることは把握しておきましょう。
保証金の目安は、賃料の6カ月~12カ月分です。最初に支払う必要があるため、よい物件を選びたいという場合は自己資金を1,000万円ではなく1,500万、2,000万など、多めに用意しておくことをおすすめします。
◇建設業は儲かる?月収・年収の目安
2022年度の調査によれば、日給月払いと月固定給の建設業従事者の月収平均は38.5万円、これに業務委託(手間受け)や一人親方を合わせた平均年収は521万円となっています。
月収は2016年が35万円、2018年には36.5万円、2020年には37.8万円と上がり、2022年の38.5万円と右肩上がりで推移しています。
2012年の平均年収が408万円、2022年には521万円であり、10年間で113万円も増加したことがわかります。途中で数千円程度下がる年もありますが、基本的には右肩上がりで推移しています。建設業は堅調に成長しており、近年の上昇傾向をみると、今後も伸びていく可能性があると考えられるでしょう。
出典:東京都連2 0 2 2年 ( R 4 年 )賃金調査報告書
建設業の独立・起業に必要な資格・許可と種類
一般的に建設業で独立・起業する場合は、建設業許可が必要です。建設業許可は29の業種に分かれているため、受注する工事の許可を持っていなければ工事ができません。
建設業許可には知事・大臣、さらに一般建設業と特定建設業のそれぞれ2種類があります。自分が独立する際にはどの許可が必要なのかを特定し、必要な許可を取得しましょう。
知事許可の場合は1つの都道府県の区域内のみ営業所を設ける場合に取得するもの、大臣許可の場合は2つ以上の都道府県に営業所を設ける場合に取る必要のある許可です。
一般建設業と特定建設業の違いは、工事の規模の違いです。
元請として工事を受注し、下請金額が4,500万円以上(建築工事一式の場合は7,000万円以上)となる大規模工事を手掛ける場合は「特定建設業」の許可が必要です。
下請として、この規模以下の工事のみを受注していく場合は「一般建設業」の許可となります。
しかし、許可がなくても工事を受注できる例外もあります。
建築工事一式以外で1件の請負代金が500万円未満の場合、あるいは建築工事一式で1件の請負代金が1,500万円未満かつ木造住宅であり、延べ面積が150平方メートル未満(うち2分の1以上が住宅)の場合は許可が不要な工事となっています。
建設業で独立・起業をする手順と必要な準備
◇まずは企業で働く
建設業で独立するには、自分が専門とするスキルや経験を身につける必要があります。そのため、いきなり独立を目指すのではなく、建設会社の社員や下請けの作業員として経験を積むことから始めましょう。
◇専任技術者になれる資格の取得
経験を積んだら、次は専任技術者になれる資格の取得を目指しましょう。建設業許可を取得したいなら、専任技術者になれる資格が必要になるためです。
建設業の許可とは、請負金額が500万円以上、建築一式工事で請負金額1,500万円以上、延べ面積150平方メートル以上の木造住宅工事を請け負うために必要な許可です。個人事業主の一人親方でも、資格を持っていれば建設業の許可を取得できます。
建設業の許可を得るための条件としては、一定期間以上の経営経験、許可業種の工事の技術と資格、営業所に配置する専任技術者の配置です。一人親方から始める場合、自分が専任技術者になれる条件を満たすか、資格を取得しておくことで従業員を雇うことなく許可を申請できます。
専任技術者になるには10年以上の実務経験、学歴と実務経験の要件、資格の取得のいずれかを満たす必要があります。いち早く専任の技術者になりたい場合は、資格を取得するのがおすすめです。
専任技術者になれる資格は、施工管理技士(土木・建築・電気など)、建築士、技術士などの国家資格、職業能力開発促進法に基づく技能検定などが挙げられます。
◇開業資金や事務所の準備
独立開業には、事務所や工具などといった備品の準備が必要です。事務所は賃貸でもいいですし、自宅の一部で開業という形をとっても問題ありません。賃貸の場合は賃料を経費にすることも可能です。
デスク、電話やFAX・パソコン・インターネット回線などの事務所の準備、工事に使用する工具にもお金がかかります。購入ではなくリースにする方法もありますが、独立当初は何かと資金が必要になるため、手持ちのものを使うのもおすすめです。
◇開業届の提出
会社を興さずに一人親方として個人事業主になる場合は、税務署に開業届を提出します。開業の際、添付資料や初期費用は必要ありません。税務署に提出した開業届の写しは、助成金の申請や銀行口座の開設で必要になるため、必ず保管しておきましょう。銀行口座は事業用とプライベート用に分けておくと、帳簿付けがしやすくなります。
なお、税金が優遇される青色申告で改行したい場合、3月15日、あるいは1月16日以降に開業した場合は事業開始から2カ月以内に申請する必要があります。
まずは個人事業主で実績を積み、売上が安定的になってきた段階で法人化するとよいでしょう。
法人化とは会社を設立することで、節税や社会的な信用度の向上が期待できます。また、個人事業主は自分自身に給料を支払うことはできませんが、法人化すると経営者は役員報酬を得られます。
法人化するには会社を登記する必要があります。社名や事業目的資本金役員構成事業目的を決め、登記に必要な定款などの書類を作成します。公証人による定款認証を受け、法務局に登記申請するまでが、会社設立の流れです。
◇建設業の許可を取得する
一人親方の場合、1件の請負金額が500万円を超えると、個人・法人を問わず建設業の許可が必要です。500万円未満の軽微な工事を請け負う場合、建設業の許可は取得しなくても問題ありません。
ただし、同業他社の事情や元請会社の要請などで、500万円未満の工事を請け負う個人事業主でも、建設業の許可を取得するケースが増えています。公共工事の受注ができる、元請けからの信頼度が高くなる、建設業の許可の申請書類が少ないといったメリットがあるためです。
建設業の許可を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
・ 経営業務の責任者がいる
・ 専任技術者を配置している
・ 資本金などの財産的な基礎がある
・ 請負契約に対し、不正や不誠実な行為をしない誠実性がある
・ 失格要件に該当しない
独立後に実績を積んでから、建設業の許可を取得すると仕事の幅が広がります。ただし、個人事業主で許可を取得し、後に法人化する場合、改めて建設業の許可の取得が必要になるため注意が必要です。
建設業の許可に関する詳細は【こちら】でチェックしてみてください。
◇元請などから仕事を受注する
独立して一人親方として働く場合も、起業して従業員を雇う場合のどちらでも、元請から仕事を受注しなければなりません。もしくは、法人化して自社で新たに仕事を受注する場合でも、何らかの形で仕事を受注する必要があります。
小規模な起業の場合、ゼネコンやハウスメーカーの下請として働くか、もしくは2次下請として仕事を受注するのが一般的です。一人親方として働くとしても、法人化するとしても、独立後の仕事の受注は、営業力や人脈がなければおぼつかないでしょう。
独立を目指しているなら、人脈の構築に役立つ職場で働くことも大切です。まずは建設会社で働き、評価を得てつながりを築いておきましょう。独立した際の働き方をイメージしながら、営業をかけたり仕事を広げるにあたってどのように対応していけばよいのかを学んでおくと、独立した際に役立ちます。
建設業の開業・運営に失敗しないためのポイント
建設業で開業した後に運営で失敗しないためのポイントを整理します。どれも一見「当たり前」のことに見えますが、実際の進め方のプランがあるかどうかを検討するチェックリストとしてもお使いください。
◇営業をして受注を増やす
人脈があるため、一定の受注が安定的に入ってくるという場合でもその状況がずっと続くとは限りません。現在の元請からの仕事がなくなっても別のルートから仕事を受注できる状態をつくるためにも、営業は重要です。ホームページの作成、広告の掲載、SNSの活用、地場の方へのチラシ配りなど、地域性に合わせた外部への発信を心がけていきましょう。
◇リピーターを増やす
安定的な受注を見込んで独立・開業したとしても、仕事が評価されなければ再度受注できる可能性は減っていきます。そうならないためにも、丁寧な仕事をすること、アフターフォローを行うこと、定期的な連絡を欠かさないといった努力がリピーターを増やすためには重要です。
リピーターが増えれば顧客理解も深まり、よりよい成果が上がりやすくなるため、安定的な運営につながっていくでしょう。
◇システムを活用する
従業員を抱えない一人親方の場合は、経費関連の管理、税務、営業活動に関連する事務作業などもすべて1人で行う必要があります。今は便利な経理システムや営業活動の管理システムがあるため、システムの力を活用しながら、安定的に運営できる体制を整えることも重要です。
◇余裕ある自己資金を用意する
独立・開業をする前に、自己資金をしっかり蓄えておくことが重要です。ランニングコストとして原価の支払いがある以上、原材料費が高騰の影響が大きく出る可能性もあります。また、先に述べたシステムなどを活用するには、導入できるだけの資金の余裕が必要です。
すべてを1人で抱え込んでしまうと、事業が回らない状態を招く可能性があるため、うまくシステムやアウトソースを活用して業務負荷を分散できるだけの資金の余裕をもって開業することをおすすめします。
まとめ
建設業は技術力がものをいうため、会社員から独立しやすい仕事の1つといえるでしょう。そのなかでもまずは一人親方として独立し、軌道に乗ってから従業員を雇う形が多いようです。
独立開業するにあたっては、資金や拠点となる事務所の契約、開業届の提出、専任の技術者の資格取得、建設業の許可など、手続きや準備が多くあります。大変な作業ではありますが、紹介した手順を参考に、1つずつ着実に準備していきましょう。
また、独立後は会社員時代とは違い、待っていても仕事がくるわけではありません。仕事を受注するための営業が必要になるため、会社員の間に技術力だけでなく人脈も増やすなど独立を見据えた行動をしておくと、未来の自分を助けることにつながるはずです。