建物を建てる際に数種類の図面を作成しますが、そのなかでも重要な役割を担うのが施工図です。ほかの重要な図面として設計図も挙げられますが、実は設計図と施工図でまったく違う役割をもちます。施工図はあらゆる角度から見た図面のため、チェックを怠ると重大なミスにつながる可能性があります。今回は、施工図と設計図の違いを踏まえ、施工図の種類、施工図をチェックする重要性について解説します。
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■建設に必要な施工図の役割と設計図の違い
施工図の役割と設計図の違いについて見ていきましょう。
◇施工図の役割
施工図とは、建物の施工に必要な情報を示した図面のことです。施工図は「建物を建てるための説明書」という役割があり、各工程の担当者は施工図をもとに作業します。
また、建設現場では多くの作業者に加え、専門工事業者も業務に携わります。施工図を見ればどのような建物を建てるのかわかるため、関係者全員で情報の共有が可能です。また、全員で同じ施工図を用いることで、ミスに気付きやすくなるメリットもあります。
◇施工図と設計図の相違点
施工図は施工業者に向けて作成する図面で、設計図は発注者、検査機関に向けた図面です。
設計図では、建物の広さ、高さ、形状、仕上げなどを記載します。さらに電気や空調、水道などの設備も記載したうえで確認検査機関に設計図を提出し、審査に合格してはじめて建設が可能になるのです。また、工事金額の見積もり、工事業者と施行の方針決めなど、建設における基本事項を決める際も設計図を活用します。
一方、施工図は設計図をもとに作成する図面で、設計図に入り切らない詳細な情報を補足した図面です。設計図は建具や設備の収まり、使用する材料、位置など、より実践的な内容になっています。
■建設で用いる代表的な施工図の種類
代表的な施工図の種類、図面の役割について解説します。
◇平面詳細図
平面詳細図とは、平面図の縮尺を拡大した図面のことです。
建具や壁、躯体などの寸法を明記し、かつ間取りを実際に表現しています。さらに断面の状況をはじめ、屋内の高さやフローリングの方向、納まりや仕上げなども詳しく記載します。平面詳細図は間取りや建具などの情報を組み込み、かつ建物を真上から見た状態になっているのが特徴です。
◇躯体図
躯体図とは、柱や梁、壁、階段などの建物の骨組みとなる、躯体工事に必要な図面のことです。コンクリートの打設位置、寸法、通り芯、コンクリートの断面寸法などを記載します。大きな建物の骨組みはコンクリートや鉄筋を用いるため、コンクリート施工図、コンクリート躯体図とも呼ばれます。
なお、躯体図は構造図と平面詳細図をもとに作成する図面です。基礎伏せ図、床伏せ図、屋根伏せ図なども躯体図の種類に含まれます。
◇断面詳細図
断面詳細図とは、建物の高さ、基礎、天井裏など、さまざまな部分の高さや仕様を示す図面のことです。断面詳細図を矩計図(かなばかりず)と呼ぶこともあります。
基礎の深さ、地面からの位置、1階や2階の床の高さなどを記載するため、施工図のなかで重要な位置づけとなる図面です。
◇仮設計画図
仮設計画図とは、建設現場の安全面を確保する図面のことです。
建設現場では作業員の安全だけでなく、周辺の通行人や通行車両の安全も確保する必要があるためです。仮設計画図は、山留め計画図・足場計画図・鉄骨建方計画図などの種類があります。
◇総合図
総合図とは、各種設備を配置するため、設備図と平面詳細図から情報を抽出して作成する図面のことです。
建設情報に加えて設備の情報も盛り込むため、総合図と呼ばれています。総合図は、意匠・構造・設備の設計情報を一元化・調整する役割もあります。
◇仕上図
仕上図とは、建物の仕上げを施工する際に必要な図面のことです。
仕上工事は、コンクリートや鉄筋で骨組みが完成したあとに行ないます。実際の施工は躯体工事よりあとになりますが、躯体図と同じタイミングで仕上図を作成しなければなりません。内装工事の具体的な情報が出ていない場合でも、仕上げを想定したうえで仕上図を作成します。
なお、タイル割付図、天井伏図なども仕上図の種類に含まれます。
◇外構図
外構図とは、建物の敷地内の設置物を示す図面のことです。
外構とは、駐車場や植栽、生け垣、外灯、玄関へのアプローチなどが挙げられます。使用する資材や設置する位置、仕上げの状況を図面で示します。フェンスや生け垣などの設置物は外観だけでなく、プライバシー保護や防犯面の考慮も必要です。
外構工事は工事の最終段階で実施しますが、建物の設計と同じタイミングで作成します。
■施工図チェックの重要性とミスの事例
施工図をチェックする重要性とチェック方法、チェック不足で起こり得るミスについて解説します。
◇施工図をチェックする重要性
事前の施工図チェックを怠ると、建設現場でさまざまなトラブルが起こります。なぜなら、施工図は実際の施工で使用するため、図面のミスを見落とすとそのまま施工に反映されるからです。
施工図を見る際は、符号、寸法が間違っていないか、整合性がとれているかをチェックすることが大切です。施工図を作成する際に記号などのミスがないと思い込み、チェックを怠ることがよくあります。しかし、「ミスがあるかもしれない」という目線で、施工図をくまなくチェックすることを習慣にしましょう。
◇施工図のチェック不足によるミス事例
施工図チェック不足が原因で、以下のミスが実際に起きています。
意匠図と構造図の整合性がとれておらず、サッシが収まらない、構造図の梁がサッシと干渉する
・符号チェックを怠ったため、コンクリート打設前に型枠をばらして配筋し直す
・平面詳細図の通り芯の寸法を正しいと思い込み、施工図チェックの最後で通り芯の間違いに気付く
・仕上工事で意匠図を使用せず、寸法などの詳細がない平面詳細図で施工したことで、建具や家具が取り付けられない
・平面詳細図と構造図、設備配管図の照合不足で、配管スペースを確保できなくなる
・断面詳細図(矩計図)のチェックを怠り、立体図の軒の出の寸法をオーバーする
このように、設計図や関連する図面のチェックを怠ると、工事の手戻りが発生するおそれがあります。図面の相互関係を把握し、さらに施工図どおりに工事が進んでいるか、その都度チェックすることが大切です。
■まとめ
施工図は実際の施工に使用する図面で、寸法や材料、収まりなどの詳細な情報が記載されています。設計図は発注者、検査機関の審査に提出する図面で、施工に使用するには情報が不足します。施工図にはさまざまな種類があり、すべての図面に関連性があります。施工図のチェックを怠ると、手戻りによる工期の遅れだけでなく、品質の低下にもつながります。施工図は実際の施工に直結する図面のため、ミスがあるかもしれないという意識でくまなく目を通しましょう。