建築物の設計はさまざまな角度から検討するため、何種類もの図面が必要になります。建築図面は意匠図・構造図・設備図に分類され、縦や横、垂直、平行など見る方向によってさらに細分化されます。
設計の初期段階から完成にかけて、建築図面とは別の図面が必要です。今回は、3種類ある建築図面の種類と役割、設計の初期~完成段階で必要な図面について解説します。
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■建築物の設計に必要な建築図面について
建築図面とは、立体的な構造物を平面的な図面で作図する、建築に必要な設計図のことです。建築物の設計図を作るにはさまざまな角度から検討しなければならず、1つの図面では情報が収まらないため、設計士は数種類の建築図面を作成します。
建築図面の作成により、どのような建物を建てるかという共通認識を持てるため、建築図面は建築主、設計者、施工者、各工事関係者をつなぐ重要なものといえるでしょう。
製図に関する規格「JIS Z 8310 製図総則」では、図面の目的が「要求事項を図面の使用者にきちんと伝達することにある」とされています。製図の規格は図面の作成方法だけでなく、用紙のサイズや様式、線や文字、図形の表し方、寸法など、共通のルールを設定しています。これらのルールを守ることで、図面が示す伝達内容を明確に伝えられるようになるのです。
■3種類の建築図面の概要と種類
3種類の建築図面の概要、各図面の種類を見ていきましょう。
◇建築図面は意匠・構造・設備に分類
建築図面を大まかに分けると、意匠図、構造図、設備図の3種類です。3種類の図面はさらに細分化され、すべての図面を合わせると22種類にもおよびます。
建設関係者は発注者にはじまり、デベロッパー、工事施工者、市役所などの諸官庁、確認検査機関など、さまざまな人が関わっています。図面の種類がこれほどまでに多いのは、建築に携わる情報を関係者にわかりやすく、かつ正確に伝えるためです。
次章より、意匠図、構造図、設備図それぞれの種類を紹介します。
◇意匠図の概要と図面の種類
意匠図とは、建物の形態や間取り、デザイン、仕様などを重点的に伝える図面のことです。意匠図の代表的な図面の種類とその役割は、次のとおりです。
意匠図の種類 |
役割 |
案内図 |
建物の住所や位置を示す地図(図面)で、地名、包囲、周辺の道路、目印になる建物などを記載する。 |
配置図 |
建物の敷地の形状、敷地内外の高低差、敷地における建物の位置、道路の幅員と位置、包囲などを表す図面。 |
平面図 |
建物の各階を水平に切断し、真上から見た図面。間取り、建具の種類と位置、壁の種類と位置などを示す。 |
断面図 |
各階の断面図を指定位置から垂直に切断し、切り口を真横から見た図面。上下階の高さ関係がわかる。 |
立面図 |
建物の外観を、東西南北から真横に表した図面。屋根、外壁、開口部などの位置や形状がわかる。 |
屋根伏図 |
屋根を上から平面的に見下ろし、屋根の形や仕上げなどを表した図面。 |
展開図 |
室内の中央部分から四方の壁を見た図面で、室内の壁面の形状を表す。各部屋の天井の高さ、窓の位置、ドアの位置、家具の位置などがわかる。 |
天井伏図 |
各室の天井を下から見上げた図面。天井の位置、天井に使う材料、照明、エアコン、火災報知器などの配置がわかる。 |
求積図 |
敷地求積図、建築面積求積図、床面積求積図があり、敷地や建物の面積、床面積を求める際に使われる。 |
矩計図 |
断面図を詳細に表現した図面。建物の地盤の位置や床・軒・窓の高さなど、高さ関係全般を示す。「くけいず」とも呼ばれる。 |
階段詳細図 |
階段の納まりを詳細に表す図面。平面詳細と断面詳細を1枚の図面にし、段や手すり、踊り場などの有効寸法を記載する。 |
平面詳細図 |
平面図をより詳細にした図面。平面的な収まりや構造躯体、仕様、窓や入口などの寸法などを示す。 |
建具表 |
建築物の開口部、内部の間仕切りなどに設ける建具の種類、形状、寸法、仕様などをまとめた図。 |
外構図 |
建築物を除く、敷地内の門扉、通路、駐車場、門灯、植栽、排水溝などの構築物を表す図面。 |
雑詳細図 |
外壁や家具など、建物のディテール部分の構造を表す図面。建築設計の締め段階で描かれることが多い。 |
◇構造図の概要と図面の種類
構造図とは、建物を支える柱や壁などの構造に関する情報を表す図面のことです。構造は建物の骨組みや土台になる重要な部分で、躯体とも呼ばれます。
部位ごとに存在する構造図の種類とその役割は、次のとおりです。
構造図の種類 |
役割 |
伏図 |
柱や梁、建物の基礎などの構造部材を平面的に表し、上から見下ろした形で示す図面。構造部材のおおよその大きさがわかる。 |
軸組図 |
柱や梁、建物の基礎などの構造部材を、垂直方向に切断した断面図。構造部分のみを断面にする図面で、通り芯ごとに軸組図を作成する。 |
標準図 |
標準図 構造部材同士の標準的な納まりを記した図面。 |
詳細図 |
構造部材同士の納まり寸法や材料などを表す図面。標準図に描く収まりを除き、特殊な箇所や収まりが難解な部分を詳細に描く。 |
◇設備図の概要と図面の種類
設備図とは、設備の仕様、配線、配管経路などを示す図面のことです。設備図の種類とその役割は、次のとおりです。
設備図の種類 |
役割 |
電気設備図 |
電気に関するすべての図面のことで、配線図とも呼ばれる。平面図に分電盤から各部屋への配線経路、ブレーカーの位置や系統、コンセント、照明器具、エアコン、電話、通信などの設備の位置が記入される。 |
空調換気設備図 |
エアコン室内機と室外機、換気扇などの配管経路や位置を表す図面。換気扇の換気能力、ダクト経路なども示す。 |
給排水衛生設備図 |
給水・排水の経路と給水箇所および排水箇所、衛生設備の位置などを示す図面。上水道の給水配管経路や材質、蛇口の位置、排水管の経路やトラップの位置、トイレの位置などが記載される。 |
ガス設備図 |
ガスの配管経路、配管の径や接続方法、引き込み経路などを示した図面。 |
■設計段階で作成する建築図面
建物の設計では、設計段階に応じて必要な図面をその都度作成します。設計段階の初期から完成までに作成する図面は、以下のものが挙げられます。
◇基本設計図
基本設計図とは初期段階の設計図のことで、発注者が望む間取りや構造、設備などを図面にしたものです。
基本設計図は、おもに発注者への説明で使われます。そのため、発注者は設計者と話し合いを重ね、設計内容を理解することが大切です。一方、設計者は発注者の要望を取り入れるだけでなく、法規制や環境などを調整して図面を作成しなければなりません。
先に紹介した建築図面は、建設会社に工事を発注する際に必要な図面で「実施設計図」に該当します。実施設計は基本設計図をもとに検討や修正を行ない、建設工事を実施できる詳細かつ専門的な図面を作成します。
◇確認申請書類
確認申請書類とは、設計図が建築基準法に則っているか確認するため、建築前に役所や検査機関に確認申請する際に必要な書類のことです。確認申請で提出する確認申請書類、図面は次のとおりです。
確認申請書類 |
確認申請書 (第二号様式) |
建築計画概要書 (第三号様式) |
委任状 |
建築工事届 (第四十号様式) |
受付表 |
建築場所に応じ、消防同意用の表紙および同意用の副本 |
基本図面 |
付近見取図 |
配置図 |
各階平面図 |
床面積求積図 |
敷地面積求積図 |
2面以上の立面図 |
2面以上の断面図 |
仕上表(使用建築材料表) |
シックハウス検討書 ※24時間換気計算、有効換気量が確認できるカタログ |
耐火構造等の構造詳細図(耐火リスト等) |
法チェック図 ※採光・換気・排煙、防火区画等 |
上表の書類と図面は、すべての建築物の確認申請に必要な書類です。ただし、都道府県や計画内容によっては、上記以外の書類や図面の提出を求められる場合があります。
◇施工図
施工図とは、実施設計図をもとにした、施工するための実践的な設計図面のことです。工事の種類、工程に携わる作業員や関係者に対し、必要な情報をわかりやすく伝える「翻訳」のような役割を持ちます。
施工図は、躯体図平面詳細図、矩計図(断面詳細図)、プロット図、天井伏図、配管図、割付図、外構図の8つです。平面詳細図、矩計図、天井伏図、外構図は意匠図を紹介する章ですでに説明したため省きますが、その他は以下のとおりです。
施行図の種類 |
役割 |
躯体図 |
鉄筋コンクリートなどの骨組みを作る際に必要。 |
断面詳細図 |
建物の基礎部分や高さなど、各部分の寸法が記入された図面。 |
プロット図 |
業者の作業内容を示す図面。打ち合わせのために作成される。 |
配管図 |
配管が必要な建築設備や機器の配管順序、構成要素などを表した図面。 |
割付図 |
建築物の外装や内装における、タイルや仕上げボード、床目地などの取り付け位置を示す図面。 |
施工図は現場の職人が利用するため、詳細な寸法や使用する材料などの情報をすべて書き込まなければなりません。施工図が現場にないと手戻りが増え、完成までに無駄な時間を費やすことにつながります。
施工図には施工に必要な寸法が網羅されており、使用する材料の間違いやサイズ違いなどのミスを防ぐことが可能です。また、施工図があることで作業者と情報を共有でき、誰かがミスをしても他の作業員が気付けるというメリットもあります。
◇竣工図
竣工図とは、竣工した建物を正確に図面にしたものです。施工図をもとに工事を進めますが、設計や配管、配線などの変更が発生することも珍しくありません。完成後の建物と施工図が異なるため、変更点を反映した竣工図を作成します。
完成後の建物を表す図面のため、リフォームや修繕の際に竣工図が大いに役立ちます。
■まとめ
建築図面には意匠図・構造図・設備図の3種類があり、さらに20を超える図面に細分化されます。1つの建築物を作るのに膨大な図面が必要になるのは、すべての関係者に情報をわかりやすく、かつ正確に伝えることが求められるためです。
意匠図は建物の間取りやデザインなど完成後の図面、構造図は建築物の骨組みや土台、設備図は電気や空調、給排水などの設備に関する図面です。これらは建設工事を発注する際に必要な実施設計図なので、ゼロから設計するには基本設計図が必要です。実際の施工に必要な施工図は、作業員のミス防止、情報共有などの役割を持ちます。
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